二人の銃手はヘルメット、防弾チョッキ、お尻には防弾用のプラスチック皿を敷き、機関銃の引金に指をかけて、たえまなく眼下の泥や葉の海を見おろしている。
いつ射たれても射ちかえせる姿勢である。タン・ソン・ニュット空港をでてから目的地に着陸するさいごの瞬間まで引金から指をはなさない。
よくよく安心できる地区でなければドアをしめない。風がびゅうびゅう吹きこんで、全身が凍りそうだ。私は五七ミリがいまに床の鉄板をつきやぶってお尻にとびこみはしないか、
胸をやられはしないかと思って、気が気でない。サラマス書店で買った文庫本のチェーホフ短篇集を左の胸のポケットに入れ、銃手の防弾チョッキで蔽われた背にピッタリくっつくようにして席にすわる。
チェーホフ短篇集で心臓をかくしてどうしようというのだ。股の間に水筒をはさんでどうなるというのだ。五七ミリは鋼鉄の板を豆腐みたいにつらぬくのだヨ... - 開高健『ベトナム戦記』
亜米利加で食べたベトナム料理は旨くなかつた。それでも麵が食べたくなつたときには味のないスープの麵を食べに行つた。
日本でベトナム料理を食べるのは初めてかな。苦手なココナツツ・ミルクの入つた魚の料理も中々旨い。「フオー、フオツ、フオツ、フオツ」、フオーもいける。
バナナの天麩羅は初めてだ。バナナの味がする。当たり前だのクラツカー。グラス一杯に注がれてくるベトナムの焼酎は効く。ところでミス・サイゴンは何処にいる?
No Smokingで煙草は吸えない。しかし料理は美味しく戴いた。「ハモニカ行きますか」、「K今日いるんだつけ?」。紹興酒が大きなグラスでお徳である。少し摘みも摂るか。
レバ刺しは食えなひが、韮レバ炒めは好きである。「今日は早めに上がりますか」、「統括は仕事?」、「呼び出すか」。
今宵も醉つて候。