- 醉処 三鷹「肥後藩邸」
- 醉日 平成二十二年十二月三十一日
- 醉人 指導員、家臣、料理長
私はこれからの日本に大して希望をつなぐことができない。このまま行ったら「日本」はなくなってしまうのではないかという感を日ましに深くする。
日本はなくなって、その代わりに、無機質な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜目がない、或る経済的大国が極東の一角に残るのであろう。
それでもいいと思っている人たちと、私は口をきく気にもなれなくなっているのである。
- 三島由紀夫『果たし得ていない約束』
亜米利加から戻つて日本で酒を呑み続けて一年が過ぎた。日本は三島由紀夫が危惧していたよりも酷い国として未だ残つてゐる。
今の日本は弱腰で、無防備な、ロリコンな、拝金主義の、武士道のない、魂の抜けた国に成り下がつた。
呑歩記最終回。大晦日の年越鍋大会。横濱駅西口の崎陽軒で買つたシウマイと実家に有つた明太子を持参して肥後藩邸へと向かふ。
着けば既に準備は万端。今日は余輩は何もしなくてよさそうだ。「今日は鳥出汁か。ちよつと味薄くねえ?」、「ちやんこのスープ足しませう」。
いつもの事だが今日も野菜が多い。健康的ですな。「ああああ~、蟹あるじやん」、「只今解凍中」。「豆腐一丁全部入れちやいます?」、「さうだね」。
「紅白観ると」、「K1観てえ」。余輩は普段テレビ観ないので何でもよひ。でもK1がいいかな。
「エグイサルつて何がいいの?」、「チームワークと踊り」、「おーい、俺達もチームワークじやあ負けねえよなあ」、「来年は踊れるやうにしやうぜえ」。
「しかし何処のチヤンネルにもエグイサルとアザラシ出てんなあ」、「この娘可愛いつすよ」、「やつぱお前らロリコンだ」、「然し四十八士つて未成年じやないの?夜中にテレビに出てていいのかね」。
テレビとか芸能とかには既について行けない。「蟹まだあ?」、「そろそろ行きますか」。鍋で蟹食うの久し振りだなあ。「あつちい、あつちい、あつちいよお~、これ」、「落とすなよ」。家臣が煮えた蟹で笑かしてくれる。
蟹も食つたし、年末呑み続けてるから酒ももう呑みたくない。少し寝ちやおう。「おつ、もう直ぐ年明けるぞ!」、「年越蕎麦は?」、「鱈食いたいとか、蟹食わせろとか、蕎麦食ひてえとか本当に煩せえおつさんだなあ」、
「よし、年明けた」、「本年も宜しく御願ひします」。「蕎麦美味いじやん」、「茹で方がいいつすからね」、「蕎麦湯も有りますよ」。家臣は早朝国許へ旅立つので長居は無用。
と言いながら結構遅くまでテレビで巣マツプを観てゐた。年が明けました。今年も旧年以上に切磋琢磨しませう。
今宵も醉つて候。
完
あとがき
呑歩記は今回を以て終了させて頂きます。八十回までお付き合い頂いた皆様、有難う御座ひました。
然し日本に居ると良く呑みますなあ。まあ吉田松陰先生も酒は呑めと仰られていたからいいのでせう。
呑歩記は終わつても余輩は日本に居る限り性懲りも無くまた何処かで呑んでゐる筈です。
また皆様と何処か素敵な店でお会ひしませう。